新型コロナウイルス感染の影響により、事業の休止や縮小を余儀なくされ、従業員の方を休業させる、という選択肢はもはや現実的に、広く用いられている状況となっております。
ところで、店舗を一時閉鎖する「休業」と、労働法が定義する「休業」とは意味合いが異なりますが、これらを混同してしまう場面も少なからず見られます。
そこで今回は、「休業」についての基本的な事項の解説と、実際に弊社にいただいた問合せ内容、および回答をいくつか紹介させていただきます。
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Ⅰ.「休業」とは?
まず、そもそも休業とは何かについてご説明いたします。
一口に休業と言っても、実際には休業に至った理由によって、自己都合による休業と、会社都合による休業の2種類に分類されます。
自己都合による休業とは主に、育児や介護、その他個人の事情により働くことが困難であるため、まとまった期間を休むというものです。
もう一方の、会社都合による休業とは、大規模災害や今回のようなコロナウイルスの影響により、自社製品に使用する原材料の高騰や、部品の調達難、不況による業績不振が発生し、事業の全部、または一部を停止しなければならない状態に陥り、労働者の仕事がない日や期間、休むといったものになります。コロナウイルスの影響によって、選択を迫られるのはこちらの休業になるのではないかと思います。
Ⅱ.休業中の給与はどうするのか?
自己都合による休業の場合は、就業規則等で特別な定めを設けていない限り「ノーワークノーペイ」の原則により、給与の支払いは発生しません。
その一方で、会社都合による休業の場合は、労働基準法によって平均賃金の60%以上の休業手当を労働者に支払うことが義務付けられています。以下に平均賃金の計算方法、および計算例を記しますので、参考としてください。
[計算方法(原則)]
算定期間中に、休日や欠勤が多かった日給・時間給の方については、上記の計算式では賃金額が低くなってしまうことがあります。この場合、例外的に別の計算式により算出された最低保証額を支払うよう定められております。詳しい計算方法についてはお近くの労働基準監督署、社会保険労務士までお問い合わせください。
次に、平均賃金の計算例をご紹介します。
[計算例]
『給与が月末締め、翌15日払いの会社の場合』
(従業員1名が3月16日から10労働日の休業を実施)
【過去3か月間の賃金(総支給額)】
・3月15日支払い
( 2月1日 ~ 2月29日分 : 29日間)
⇒ 250,000円
・2月15日支払い
( 1月1日 ~ 1月31日分 : 31日間)
⇒ 265,000円
・1月15日支払い
(12月1日 ~ 12月31日分 : 31日間)
⇒ 243,000円
前述の計算式より、
…となります。
以下、補足説明となります。
民法上、労働者は100%の賃金請求をできることになっております。しかしその一方で、民法上の原則に従えば、労使の合意により0%とすることも可能ということになります。しかし、それでは労働者の生活を脅かすものとなってしまいますので、労働基準法により平均賃金の60%以上を支払うよう義務づけられているという背景があります。
まず、平均賃金の60%を支払っていれば絶対に大丈夫というものではないことをご理解いただき、労使間のトラブルを回避する為にも、就業規則に定めた上で、入社時等に誓約書を取得する、休業前に労使間でしっかりとした合意をする等といったことが必要かと思います。
Ⅲ.休業に関するQ&Aまとめ
① 休業期間中に、従業員から年次有給休暇の取得を申し出てきたが、応じる必要があるか?
休業手当の金額というのは、平均賃金の60%ですので、従業員の方にとっては著しく収入が少なくなってしまいます。そのため、中には年次有給休暇の取得を申し出てこられる方もいらっしゃると思いますが、休業とは、労務の提供を免除するものであり、年次有給休暇とは、就業義務のある日に対してのみ使用できるものですので、休業日(就業義務のない日)については、年次有給休暇を請求する余地はないかと考えられます。
もちろん年次有給休暇を認めてあげることも可能ですので、従業員の方の納得を得られるよう労使間でしっかりとした話し合いが必要かと思います。
② 国・自治体から要請があり、事業所を休業した場合も休業手当の支払いが必要か?
国・自治体からの要請によるものであっても、それだけをもって休業手当の支払い義務を免れるものではないので、従業員に対する休業手当の支払いは必要となります。
③ パート従業員にも休業手当の支払いが必要か?
休業期間中の休業手当の支払いについては、休業となった全ての従業員が対象となりますので、パート従業員も含まれます。パート従業員の勤務日については、雇用契約書で週3回(月・水・金)というように曜日で定められていたり、予め勤務割表(シフト表)などで定められていたりするかと思いますが、それによって本来勤務すべき日に対しては、休業手当の支払いが必要になります。なお、パート従業員の平均賃金については、前述の最低保証額の計算が適用される可能性がありますので、ご注意願います。
④ 1日の一部を休業したが、その場合の休業手当はどのように考えればよいか?
1日の一部を休業した場合については、その日の賃金(実労働分)が平均賃金の60%以上であれば休業手当は不要となりますが、60%に満たない場合はその差額を支払う必要があります。
⑤ 会社の寮を利用している外国人技能実習生が、一時帰国し、再度日本に戻った場合に、会社の寮ではなく、他の施設で経過観察を命じた場合に、施設利用料は会社が負担しなければならないか?また、経過観察期間中の休業手当は必要か?
法的には施設利用料の負担義務はありませんので、就業規則や、個別の雇用契約上別段の定めがなければ、支払い義務はありません。しかし、従業員の方の心情面を考慮する必要がありますので、労使間でのしっかりとした話し合いが必要になります。
休業手当につきましては、会社判断による休業になりますので、休業手当の支払い義務が発生すると考えられます。
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